デンマーク家具を巡る旅9
「Hanna Vedel(ハナ・ヴェーデル)さんの話」
デンマーク最後のテキスタイルデザイナーを訪ねて
デンマークで今も生み出される建築・家具・照明など
多くのデザインの中で必要不可欠なモノ。
それは様々なものを彩るテキスタイル。
今回の旅で、そのテキスタイルデザイナー
Hanna Vedel(ハナ・ヴェーデル)さんのアトリエを訪れた。
ハナさんのテキスタイルが生まれる工房
「Spindegarden(スピネゴーエン)社」入口
ハナさんは主にウールなどを使ったテキスタイルデザイナーだ。
御年84。
その創造的な手仕事は、デンマークの織物の芸術性や技術の質を高めた。
フィンランドで修業を積んだ後、1951年に職人の証明書を取得した。
その後はリネン・コットン・シルクを使ったオリジナルファブリックを生産販売した。
また、手織りのカーテンやテーブルクロスなど、あらゆるファブリックをデザインしていった。
その作品は今日、世界各国で販売され、好評を得ている。
ハナさんが織りなすデザインは、紙やコンピューターなどではなく、
手を動かしながら生み出され長年の経験と彼女のセンスで迷うことなく糸を通していく。
デザインのインスピレーションはどこからくるかと問うと
「色の組み合わせは感覚だから、私にも分からない」と答えてくれた。
手を動かして考えるのだそうだ。
ハナさんの仕事は、教会の祭壇までの通路に敷く絨毯、
神父の祭服や椅子座面など、多岐にわたるファブリックのデザイン。
現在では100以上の教会でファブリックが採用されている。
今回の旅をコーディネートしてくれた万寿実が扱う
デンマーク家具の会社の現地スタッフ、トーベン氏が
ハナさんの工房にあった祭服を着て見せてくれた。
その確立された技術を持って、デンマークを代表する建築デザイナーと様々な仕事をし、
その数300以上とも言われる。
公共施設なども数多く手がけ、80年代に県庁の仕事を依頼された時の条件は、
全て地元の素材を使って施設を作ること。
人を愛し、地元を愛し、ポリシーある仕事をし続けている。
コペンハーゲン教会、コペンハーゲン裁判所、コペンハーゲン証券取引所、
ルクセンブルクEU裁判所、デンマーク銀行などで
ハナさんのファブリックが採用されている。
そんなハナさんだが、実は後継者がいない。
賃金の高くなったデンマークでは非常に難しい仕事となり、
彼女を最後にデンマークから手織りのテキスタイルはなくなってしまう。
彼女が仕事を終えたとき、それは同時に
古き良きデンマークデザインの一つの区切りとなるだろう。
2015年、ウェグナーデザインのPP701が50周年を迎えた。
その特別企画としてハナさん手織りの貴重なファブリックを
座面にあしらった記念モデルが制作された。
使用されたのは、実際に採用された商品のわずかな生地見本や
商品化されていない生地のプロトタイプなど様々だが、
どの生地も椅子1脚もしくは2脚分しか取ることができない。
それゆえ、そのほとんどが1点もので、
世界的にも非常に価値のあるチェアとなることは間違いない。
そのとても貴重なPP701、実は万寿実にも展示中。
革張りのPP701はこれからも生産されますが、
ハナさんの生地を張ったものはこれしかありません。
デンマークで見てきたものを張ってもらいました。
全てハナさんの自筆サイン入りの限定品です。
アトリエは白壁だが、ハナさんのテキスタイルがとてもよく映える。
ハナさんから作りだされた一点一点がとても美しくどれもが素敵だった。
ハナさんと。
デンマーク家具を巡る旅10 「スパニッシュチェアの話」へ続く