デンマーク家具を巡る旅3「PPモブラーのひととなり」
PP Mobler 今も名作を作り続けるクラフトマン集団を訪ねて①
PP Mobler(PPモブラー)社は、1953年に工房を始めてから現在に至るまで
高品質デザイン家具を製造する伝統ある伝統ある総勢30名弱の小さな工房だ。
PPモブラー社は閑静な住宅街にある。大きな工場でもなく、通りには看板もない。
知らないと通り過ぎてしまいそうで、ここから世界に向けて家具を出荷しているとは到底思えないほどだ。
デンマークでは日本同様、大きな木工工場の立地にはいろいろな制約がある。
その規制をクリアし、住宅地においても害がないという認定を受け特別に工場を構えられている。
PPモブラーとハンス・ウェグナーとの関係
創業者のアイナ・ペーターセンとウェグナーとの出会いは、1950年頃。
ウェグナーがデザインした「ベアチェア」の木部を
PPモブラーがAPストレーン社のサブ・プライヤーとして作っていた時に遡る。
当時、工房を訪れたウェグナーがアイナに
「中身は見えないから、そんなに手を掛けなくていいよ」と言ったところ激怒されたらしい。
「僕らは見えないところであっても出来うる限りの技術で最高の物を提供する。それが職人としてのプライドだ」と。
ウェグナーは、その木工職人としての気質にほれ込み、アイナとの距離を急速に縮めた。
その後、PPモブラーはウェグナーの家具の他社にあった製造権を獲得し、関係はますます深まっていった。
<初代チェイニーズチェアに改良を加えるウェグナー(左)とアイナ(右)>
Hans J.Wegner
ハンス・J・ウェグナー 1914-2007.1
生涯、500種類以上ものチェアをデザイン。
20世紀の北欧デザイン界に多大な影響を与えた家具デザイナー。
自らも優れたクラフトマンでもある彼の作品は、
どれも技術に裏付けされた堅実で実直なデザインが特徴。
晩年のウェグナーが立ち寄った家具工房はアイナがいたPPモブラーだけとのこと。
ウェグナーが亡くなった今でもその関係は続き、
デザインを管理するウェグナーの娘アリアンヌさんは頻繁にPPモブラーを訪れている。
PPモブラーの人となり
世界に向け家具を作るPPモブラー。
同じく世界にデザイナー家具などを輸出するデンマークの他の家具メーカーは、
綺麗な大きい工場、広々としたお洒落なショールームなどを構えるが、PPモブラーにそれらはない。
1950年代から続く今も変わらない、家族経営の町工場だ。
左からカスパー、ソーレン、アイナ・ペーターセンの親子3代のクラフトマンのマイスターだ。
経営者である前に、クラフトマンであることが他のメーカーと大きく違う。
ウェグナーは2007年に亡くなってしまったが、彼と一緒にしてきた仕事で養われたDNAは脈々と受け継がれている。
ソーレンさんのデスクの後ろには在りし日のウェグナーとの写真が飾られている。
少し気難しそうに見えたソーレンさんだが、実はすごく気さくな方。
「他の家具メーカーはきれいな建物ばっかりだけど、うちは見ての通りさ。
いつも良い木(材料)にこだわりすぎて、お金がないんだ!」とぼやきながら、でも誇らしそうに笑っていた。
PPモブラーの訪問を終えて
ただの有名デザイナーの家具・・・。と思われがちなPPモブラーの家具だが、実際はその域を超えていると感じた。
木を知り家具を熟知するデザイナーとそれを実現する技術力。そこまでは世界中を探せばきっと他にもあるだろう。
しかし、それに加えて持続可能な自然との共生と永続的に使える家具づくりをストイックに追求し続ける工房PPモブラー。
ここで造りだされた家具を使うことは、ウェグナーの家具を買うだけではなく、PPモブラーからのメッセージを受け止めることになる。
それを感じられた時、使う人にとって唯一無二の存在になると感じた。